宿泊業は現場・接客等の仕事が多いため、今までは就労制限がなく一番雇用しやすい身分系のビザを持つ外国人、週28時間以内でアルバイトができる「資格外活動許可」を取得している留学生や家族滞在ビザを持つ外国人が多かったかもしれません。また、インターンシップ・ワーキングホリデー等の特定活動ビザの外国人方たちもお仕事をされていました。
一方で、専門性や技術力の高いビザである技術・人文知識・国際業務ビザを持つの外国人の方もいます。このビザは大学等で学んだ専門分野の技術・知識と関連性のある業務や、外国人特有の感性を必要とする業務に従事するビザになります。
それでは、宿泊業に関係する主な就労ビザ等、各種ビザについて、以下をご覧ください。
ホテル・旅館等での外国人雇用と就労ビザ
入管HP情報 / インバウンド関連ブログ
●入管HP情報
・2024年3月29日閣議決定
特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について(令和6年3月29日閣議決定)
・2024年3月15日付:技能実習・育成就労・特定技能
出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案
・2024年2月29日付:
外国人留学生関連「技術・人文知識・国際業務」「特定活動(告示第46号)」
外国人留学生の就職促進に向けた運用等の見直しについて
●インバウンド関連ブログ
・2024年9月14日:特定活動46号ビザ
「特定活動46号」(本邦大学等卒業者)ビザを食品製造業での許可事例
・2023年01月07日:宿泊業(老舗旅館)
外国人材の雇用をしている旅館をご紹介します
・2022年10月19日:外食業
農業・飲食料品製造業・外食業など多岐に渡る企業の就労ビザについて
2019年から2020年にかけて、「特定技能」ビザ、「特定活動46号」ビザ等のビザ(在留資格)ができ、現場系や接客系の産業分野での外国人雇用はかなり広がりました。さらに「技能実習」ビザでは、宿泊職種が技能実習2号の移行対象職種として認定されました。これらビザの観点からも、接客・販売業やインバウンドのおもてなしの現場で、外国人材活躍の場は更に増えてくるでしょう。
ホテル・旅館等での外国人を雇用するビザ
ホテル・旅館等での技術・人文知識・国際業務ビザ
- 1、ホテル・旅館での「 技術・人文知識・国際業務」在留資格(ビザ)に該当する業務
- 日本若しくは外国の大学又は日本の専門学校を卒業した外国人がホテル・旅館等の宿泊施設における業務に従事する場合,地方の入管局(出入国在留管理庁)で「在留資格認定証明書交付申請」又は「在留資格変更許可申請」を行うことが必要です。
この場合,在留資格「技術・人文知識・国際業務」への該当性を審査することになります。この在留資格に該当すると認められるためには,申請人が従事しようとする業務が「日本の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務」又は「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務」でなければなりません。
つまり、「ホテルや旅館と雇用契約を結び、その雇用先において、大学等で学んだ専門分野の技術・知識(上記の理系や文系の技術や知識)と関連性のある業務や、外国人特有の感性を必要とする業務に従事する活動であること」ということです。
ホテルや旅館等で考えられる業務の例としては、総務、経理、外国の旅行会社との折衝・契約を含む経営企画業務、商品開発、営業、マーケティング企画立案、海外の宿泊者が多いホテル・旅館でフロントやコンシェルジュとして翻訳・通訳、従業員への語学指導、パンフレットやホームページの翻訳などになるかと思います。
・ホテル・旅館での「技術・人文知識・国際業務」ビザ許可不許可事例について
- 2、ホテル・旅館での「技術・人文知識・国際業務」ビザに該当しない業務
- 宿泊業の場合、現場での接客業務も多いですが、これらの業務が「技術・人文知識・国際業務」ビザ(在留資格)の活動に該当しないこともあります。「技術・人文知識・国際業務」ビザでお仕事をする場合、入管局(出入国在留管理庁)に「単純労働とみなされる職種」では就労の在留資格(就労ビザ)は取得できません。
「就労ビザが取れない職種」にもありますが、ホテル内のレストランのホール係、客室清掃、ドアマン、規模が小さいフロント業務等の職種では「技術・人文知識・国際業務」ビザは取得できません。ですが、これらの業務が全くできないというわけでもありません。
「技術・人文知識・国際業務」ビザの活動に該当しない業務に関して、入管法に規定される在留資格に該当するものであるか否かは,在留期間中の活動を全体として捉えて判断することとなります。例えば、以下のような採用当初の研修や突然の業務などです。
・採用当初の研修等
採用当初の時期に行われる研修の一環である業務で、同じ時期に入社した日本人も一緒に受ける現場での業務。このような場合に関しては、企業における研修の一環であって当該業務に従事するのは採用当初の時期に留まる,といった場合には許容されます。
※「入社後のキャリアステップや各段階における具体的な職務内容と当該研修の内容との関係等に係る資料」の提出を入管局から求められることがあります。
「技術・人文知識・国際業務」ビザで許容される実務研修について詳しくはこちら
・突然の業務等
一時的に「技術・人文知識・国際業務」に該当しない業務を行わざるを得ない場合。
例えば,フロント業務に従事している最中に団体客のチェックインがあり,急遽,宿泊客の荷物を部屋まで運搬することになった場合などです。
このような場合には、この業務を行ったとしても、入管法上直ちに問題とされるものではありませんが,結果的にこうした業務が在留における主たる活動になっていることが判明したような場合には,「技術・人文知識・国際業務」ビザに該当する活動を行っていないとして,在留期間更新を不許可とする等の措置がとられる可能性があります。
- 3,「技術・人文知識・国際業務」ビザの要件
- 「技術・人文知識・国際業務」の在留資格(ビザ)に該当すると認められるためには以下の(1)又は(2)の要件,かつ(3)の要件を満たす必要があります。
(1)申請する外国人が「自然科学又は人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務」に従事しようとする場合は,従事する業務について次のいずれかに該当し,これに必要な技術又は知識を修得していること。
①当該技術若しくは知識に関連する科目を専攻して大学等を卒業し,又はこれと同等以上の教育を受けたこと。
②当該技術又は知識に関連する科目を専攻して日本の専修学校の専門課程を修了したこと。
※ただし,「専門士」又は「高度専門士」の称号が付与された方に限られます。
③10年以上の実務経験(大学,高等専門学校,高等学校,中等教育学校の後期課程又は専修学校の専門課程において当該技術又は知識に関連する科目を専攻した期間を含む。)を有すること。
≪留意点≫
・ 従事しようとする業務は,学術上の素養を背景とする一定水準以上の専門的技術又は知識を必要とするもので,単に経験を積んだことにより有している知識では足りず,学問的・体系的な技術・知識を必要とする業務でなければなりません。
・ 従事しようとする業務と大学等又は専修学校において専攻した科目とがある程度関連していることが必要となります。
なお,①の大学(本邦所在・外国所在を問わない)を卒業した者については,大学の教育機関としての性格を踏まえ,専攻科目と従事しようとする業務の関連性は比較的緩やかに判断することとしています。
(2)申請人が「外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務」に従事しようとする場合は,次のいずれにも該当していること。
① 翻訳,通訳,語学の指導,広報,宣伝又は海外取引業務,服飾若しくは室内装飾に係るデザイン,商品開発その他これらに類似する業務に従事すること。
② 従事しようとする業務に関連する業務について3年以上の実務経験を有すること。ただし,大学を卒業した者が翻訳,通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は,この限りでない。
≪留意点≫
・ 当該業務は,外国に特有な文化に根ざす一般の日本人が有しない思考方法や感受性を必要とする業務であって,外国の社会,歴史・伝統の中で培われた発想・感覚を基にした一定水準以上の専門的能力を必要とするものでなければなりません。
(3)日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
- 4,ホテル・旅館での「技術・人文知識・国際業務」ビザ:その他の注意点
- ①「国際業務」に該当する業務を行う場合、外国人の宿泊者が多いホテル・旅館が前提となります。外国人を雇用して通訳・翻訳をしてもらうだけの外国人客があるのかどうかが大きなポイントです。また、ご来店の多いお客様の国籍に合致する外国籍のスタッフを雇用することもポイントです。
②「フロント業務」に関してですが、規模が小さいホテルのフロント業務に関しては単純労働とみなされがちです。フロントがメインの職務として在留資格を取得したい場合は、ホテルの規模・知名度、外国人客の多さと、通訳・翻訳等での外国人顧客対応の重要性を入国管理局へ詳細な説明が重要となります。
フロント業務で採用する場合は、「外国人観光客担当のホテル施設案内業務」や「外国人観光客向けHP作成」等の通訳・翻訳業務等、外国人の活躍できる業務説明や、その裏付け資料が必要です。
例えば、その採用するホテルや旅館で外国人客(採用した申請人の母国の外国人客)が多いことや、その申請人の母国に進出しマーケティングしてその母国からの観光客を増やしたい等であれば、その詳しい説明や外国人客の人数や比率資料等があると、より説得力があります。
③申請人が母国語を用いて行う業務に十分な業務量がなければなりません。もちろん、その裏付け資料も必要です。
④補強書類として、申請人が事務作業する予定のデスク配置図や、申請人のPCが置かれたデスクの写真、その他PCやプリンターなどの事務機器がある事務所の写真等も提出できれば良いと思います。
就労の在留資格の許可基準というのは、あくまでも専門的な職務を遂行するためということがあるので、それを裏付け資料や補強資料を添えて説明できれば良いでしょう。
ホテル・旅館等での特定活動46号ビザ
2020年2月改定の日本の大卒で高度な日本語能力を有する外国人が取得可能なビザです。
ホテルや旅館で,翻訳業務を兼ねた外国語によるホームページの開設,更新作業等の広報業務を行う業務や外国人客への通訳(案内)を兼ねたベルスタッフやドアマンとして接客を行う業務が可能です。
また、日本人に対する接客を行うこともできますが、客室の清掃にのみ従事することは認められません。ご注意ください。
この特定活動46号ビザは「技術・人文知識・国際業務ビザ」よりも現場や店頭に立つ外国人に合ったビザですし、インバウンド業には最適なビザと言えます。今後、宿泊業でも特定活動46号ビザを取得する外国人材は増えてくるでしょう。
「特定活動46号」ビザについて詳しくはこちら
ホテル・旅館等での特定技能ビザ
「特定技能」ビザとは、2019年4月から始まった新しいビザ(在留資格)で、人材を確保することが困難な14分野の「特定産業分野」に外国人材を受入れる為のビザです。宿泊分野の特定技能ビザでは「技術・人文知識・国際業務」ビザでは認められなかった職種も付随的にできるようになりました。
例えば、「技術・人文知識・国際業務」ビザでは簡単な接客、宿泊やレストランサービス業務等の現場系の付随業務は行なえませんでしたが、「特定技能1号」では付随業務も出来るようになりました。令和4年9月末時点での特定技能在留外国人数は108,699人です。そのうち宿泊業の特定技能人材は182人となっています。
(令和4年8月30日閣議決定)
2022年8月30日の閣議決定により、特定技能の在留資格における受入れ見込数の見直しと、制度の改善について、制度の運用に関する方針(分野別運用方針)の変更が行われました。宿泊業の受入見込み数と制度の改善は以下1と2の通りです。
➡詳しくはこちら
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- 1,特定技能外国人の受入れ見込数について
- 各特定産業分野における受入れ見込数は政府基本方針に基づいて、大きな経済情勢の変化が生じない限り、1号特定技能外国人の受入れの上限として運用されることになり、令和6年3月末までの受入れ上限となっています。
宿泊分野においては、当面、受入れ見込数を最大1万1,200人とし、これを受入れの上限として運用するとのことです。 - 2,制度の改善➡技能実習2号から特定技能への移行の円滑化
- 技能実習2号を修了した者については、政府基本方針において、特定技能試験等を免除し、必要な技能水準等を満たすものとして取り扱っていますが、特定技能制度が開始された時点で技能実習2号の対象ではなかった一部の職種・作業については、試験免除の対象となる規定が措置されていませんでした。
今般、宿泊分野の「宿泊職種(接客・衛生管理作業)」を修了した者について、関連する分野に試験免除で移行できるよう規定を整備しました。
以下が宿泊業での概要になります。
- 特定技能ビザ:宿泊業での概要
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- 1,受入れ見込み数
- 上記いたしましたが、受入れ見込数を最大1万1,200人とし、これを令和6年3月末までの受入れの上限として運用するとのことです。
- 2,特定産業分野の人材基準
- 宿泊分野において特定技能1号の在留資格で受け入れる外国人は、以下に定める試験に合格した者とする。
(1)技能水準(試験区分)「宿泊業技能測定試験」
(2)日本語能力水準「国際交流基金日本語基礎テスト」又は「日本語能力試験(N4以上)」
※上記の通り、制度改善があり、宿泊分野の技能実習2号「宿泊職種(接客・衛生管理作業)」を修了した者について、関連する分野に試験免除で移行できるよう規定を整備されました。
※第2号技能実習を良好に修了した者の日本語能力の評価職種・作業の種類にかかわらず、第2号技能実習を良好に修了した者については、技能実習生として良好に3年程度日本で生活したことにより、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力水準を有する者と評価し、上記日本語の試験を免除する。
試験に関して詳しくはこちらから
➡宿泊業技能試験センター
- 3,従事する業務
- フロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務。
※あわせて、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務
(例:館内販売、管内備品の点検・交換等)に付随的に従事することもできますが、これらの付随業務ばかりを行うことはできません。 - 4,受入れ企業に対して特に課す条件
- ・国交省が組織する協議会に参加し,必要な協力を行うこと
・国交省が行う調査又は指導に対し,必要な協力を行うこと
・登録支援機関に支援計画の実施を委託するに当たっては,上記条件を満たす登録支援機関に委託すること
・「旅館・ホテル営業」の許可を受けた者であること
・風俗営業関連の施設に該当しないこと
・風俗営業関連の接待を行わせないこ
- 5,特定技能外国人の雇用形態と在留期間
- 直接雇用に限る。
在留期間:通算で上限5年まで。
ホテル・旅館等での技能実習ビザ
2020年2月に、宿泊職種が技能実習2号の移行対象職種として認定されました。2020年以前は2号への移行対象職種になっていなかったので、1年で実習を終えて帰国しなければなりませんでした。ですが、2号の移行対象職種になりましたので通算3年の実習が可能です。以下が技能実習の宿泊の概要になります。
技能実習ビザ:宿泊業での概要
- 1,目的
- 国際貢献のため開発途上国等の外国人を日本で一定期間受け入れ、OJTを通じて技能を移転する実習目的です。実習生が宿泊分野の技能等を習得するためのビザです。
- 2,技能実習の期間
- 最長3年1号は1年、2号は2年(通算3年)。
- 3,転職
- 基本的に転職は不可です。
※受入企業先の倒産、技能実習生に対する人権侵害行為や賃金、残業代の支払いがされない等の問題が起こった場合は、技能実習生の保護のため技能実習生の転籍措置に当たる転職は可能です。 - 4,宿泊職種(接客・衛生管理作業)作業の定義
- 下記の①~③のすべての条件を満たす宿泊施設における、宿泊、飲食、会合等での施設の利用客に対する、到着時・出発時の送迎、チェックイン・チェックアウト作業、滞在中の接客作業や料飲提供作業、またそれらに伴う施設の準備・整備、利用客の安全確保、衛生管理のための作業をいう
①旅館業法に定める旅館・ホテル営業の許可を得て、専ら客と対面して接遇を行う宿泊施設(※1)
旅館業法第3条第1項の規定による旅館・ホテル営業の許可を証する書類
(※2)
②食品衛生法に基づく営業許可を得た宿泊施設
食品衛生法第52条に規定する営業許可として食品衛生法施行令第35条第1号の飲食店営業に係る営業許可書の写し(※3)
③消防法令適合通知書の交付を受けている宿泊施設
消防法令適合通知書の写し(※4)
(※1)店舗型性風俗特殊営業に関する施設は除く。
(※2〜4)受入の際にはこの書類が必要となります。
出典:
宿泊分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針
「宿泊分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る運用要領
ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について
留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大学卒業者)についてのガイドライン
新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(出入国在留管理庁)
外国人技能実習制度について
(法務省 出入国在留管理庁 厚生労働省 人材開発統括官)
技能実習計画審査基準(厚生労働省HP)